認知症という言葉が今では当たり前のようになってきました。その認知症の中核症状の中に見当識障害という症状があります。
また、認知症だけでなく、脳血管性障害(脳卒中)でも起こりうる障害でもあります。
ここでは特に認知症の中核症状である、見当識障害についてまとめていきます。
見当識障害とはどんなものなのか、対策についても見ていきましょう。
見当識障害とは
見当識には、大きく分けて3つあります。
・時間に関するもの。(日時の見当識)
・場所に関するもの。(地誌的見当識)
・人に関するもの。(相貌失認など)
それぞれ、段階的に見られる症状です。
その3つの見当識障害がどのような症状なのか詳しく見てみましょう。
見当識障害の症状について
日時の見当識障害
この見当識障害では、病気の早期から障害され、まず日付や曜日が曖昧になってきます。
その後、今が何時なのか昼なのか夜なのかがわからなくなっていきます。
深夜なのに、近くのスーパーの昼のセールに行ってくるといった行動をすることもあります。
また、季節感も失われることが多いです。真夏なのに真冬の格好をしたりします。
そのため、見当識障害による行動が原因で、脱水症状などの体調不良を起こすこともあります。
地誌的見当識障害
この見当識障害では、ここがどこなのかなどがわからなくなります。
今まで、散歩していた道なのにどこかわからなくなり、その場から動けない場合もあります。
また、近くのスーパーへ買い物しに外へ出かけたけど、スーパーがどこにあるのかわからなくなったりします。
さらに、家に帰る道がわからなくなり、遠くへ行ってしまったり家への帰り道がわからなくなり、行方不明になってしまうこともあります。
人に関する見当識障害
この見当識障害では、自分の子供の顔をがわからなかったり、自分の子供を親、兄弟と間違えたりします。
また、人の顔を覚えることが難しくなり、ついさっきまで話しをしていたのに誰かわからないといった症状になります。
特に人に関する見当識は、病気が重症になってからみられることが多いです。
見当識障害が原因で起こる問題
先程述べたことをまとめるとこれらのことが問題としてあげられます。
・外に出かけたが帰る道がわからなくなり、出た先で交通事故に巻き込まれることもあります。
・自分がどこにいるかわからなくなった末に、行方不明になるなどの事件が実際に起こっています。
・季節感がなくなってくると、真夏なのに真冬の格好をすることで、脱水症状を起こす可能性もあります。
脱水症状が悪化すると最悪、死に至る可能性もありますので、介助者が同居している場合は、季節にあった服に着替えさせたり水分補給をこまめに行うなどが必要になってきます。
看護師やヘルパーにもわかりやすいように工夫して、衣替えを頼むのも良いでしょう。
見当識障害の対策について
見当識障害が起きてしまった方にどのような対応や対策をしたら良いのか、症状が悪化しないためにはどうした良いか詳しく見ていきましょう。
見当識障害には、現実見当識訓練(Reality Orientation:RO)が有効とされています。
このROは24時間RO(非定型RO)とクラスルームRO(定型RO)の2つに分類されます。
24時間RO
対象者に関わる人が対象者に対し、時間と場所を問わず、さまざまな場面で日時や場所、人物などの情報を繰り返し教示する方法です。
また、生活空間においても正しい見当識をもてるような配慮(みやすい大きな時計をつける。大きく所在地を書いておく。
顔写真と名前が書かれたボードをみやすいい場所に置く。など)をすることを言います。
クラスルームRO
決まった時刻と場所に対象者に集まってもらい、30分から1時間程度の時間内で行われることが多いです。
季節に関連した題材を参加者で話し合ったりするなど、時間や場所などの見当識に関する情報を繰り返し提供する方法です。
ただし、注意する点があります。
対象者が場所や時間、人物をはっきり認識できるようにすることだけが、目的となってはいけないということです。
ROは、自分がどういう場所にいて、何をしようとしているのかなど、周囲と自分との関係性を再確認し(手がかりを提供し)、少しでも安心して過ごすことができるようにすることが大切な目的となります。
人に関する見当識障害では、家族の写真などを見やすいところに置き、「この人は誰ですか?」など対象者へ声かけすることも効果的です。
見当識障害の予防策について
見当識障害の予防策としては、先ほど紹介したROを基にカレンダーや時計を効果的に使うと良いです。
見当識障害が見え始めたら、見やすい大きさのカレンダーを貼って今日の日付に丸などの印をつけるなどすると効果的です。
また、今日は「何月何日何曜日」と声に出していうことも効果的です。
声に出すことで、印象に残りやすい傾向にあります。
時計は、各々によってアナログ、デジタルとわかりやすいものが異なります。その人その人にあった時計を選びましょう。
また、音声の出る時計があるので、「何月何日何曜日、何時何分、天気は・・・」と定期的にお知らせがあるとさらに効果的です。
介助者が対象者に対して行う場合は、「もうお昼ですね」「寝る時間ですね」などといった声かけをたくさんすることで、習慣化されることもあります。
気分転換に運動をすることもお勧めです。
しかし、見当識障害が進行している場合は、一人ではなく必ず介助者と一緒に行うことが良いでしょう。
特に、気分転換のための運動として良いのが散歩です。
迷子になったらどうしようやどこかへ徘徊するかもしれないからと外出させないようにすると、脳への刺激が少なり、より進行を早めてしまう可能性があります。
見当識障害を予防していくためにも、散歩などの適度な運動をすることをお勧めします。
さらに、他者との交流も効果的です。
中には、認知症カフェやデイサービスなどさまざまな介護サービスがあります。
そこで、紹介したROや他者との交流の中で、何曜日はあの人に会えるといった習慣から予防につながることもあります。
対象者と一緒にその日のスケジュールを立てることも予防にはとても重要です。
今日は1日はこんなことがある、何時からこれをするといったスケジュールがあることで、お互いに安心して生活を送ることができます。
見当識障害のまとめ
今回は、認知症によって起こる見当識障害を中心に紹介しました。
見当識障害は、段階的に日時から障害されていき、最終的には身近な人がわからなくなるといった障害であることがわかります。
見当識障害が起きてしまった本人は、気づいていないことが多いです。
また、自身が壊れていく、おかしくなっていくということを感じる人もいます。
周りがそれに気がついた時は、「何言っているの?」や「また?」など否定的な対応ではなく、気長に接していくことが大切です。
認知症の場合は、脳の障害が主な原因ではありますが、精神的なものも大きく関わってくることがあります。
必ず、誰かが対象者と一緒に対策や予防などを行なっていく必要があるため、介助者が気長に接していくことで、進行が緩やかになったり一時的であっても症状が改善されたという事例もあります。
お互いの関係性が深ければ深いほど、苛立ちや強く当たってしまうことが多いです。
そんな中でも普段と変わらない関わり方をすることが大切です。
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